現経営者が自分の仕事が楽しくて仕方がない

現経営者にありがちな心理的要因

非常にプラス思考であり、経営意欲が高いタイプの現経営者にありがちな心理的要因です。こういった現経営者に対して事業承継の提案を行うと、「まだ早い」、「もっと成長させたい」、「自分の経営判断は鈍っていない」などの反応が返ってきます。

 このようなタイプの現経営者の場合、株式評価が低いor税制上のメリットがある今がチャンスといった税務対策を提案しても全く心には響いてこないように思います。また、現経営者が亡くなった後の相続問題が紛糾するといった会社とは直接関係のない将来リスクを指摘しても、やはり現経営者の心には響かないのが実情のようです。
 一方、このようなタイプの方は、会社を我が子のように(?)かわいがり、大事にしています。そこで、事業承継を進めないと大事な会社が潰れてしまうことを指摘しつつ、提案を行うことがポイントになってきます。

まずは、事業承継の重要性を知ることから

例えば、「社長がまだまだ現役バリバリで経営することが会社の成長にとって一番望ましいことは理解ができます。
ただ、縁起でもない話かもしれませんが、人の命はいずれ終わりを迎えます。このとき会社はどうなるか想像できますか。今のままでは社長がいなくなると、即会社はつぶれてしまうのではないでしょうか。せっかく築き上げた会社を社長の一代で終わらせるのはもったいないですよね。社長の思いがつまった会社を永続させるためにも、今から少しずつ会社の将来のことを考えてみませんか。」

といった言い回しをしながら、現経営者に事業承継は会社の一大事であることに気が付いてもらうのはいかがでしょうか。現経営者が気付きさえすれば、意外とスムーズに事業承継手続きが進みだすように思います。

 

事業承継の提案の方向性

ポイントは緩やかな事業承継!

 さて、現経営者に対する説得が功を奏し事業承継に関心を持ち出した場合であっても、こういったタイプの現経営者に対して、いきなり現経営者に経営権を後継者に譲渡する(経営権を放棄させる)といった提案を行うことは禁物です。

このようなタイプの現経営者は生涯現役と考えている以上、会社経営にはいつまでも関与したいと考えているからです。

したがって、緩やかな事業承継とでもいえばよいでしょうか、
・現経営者と後継者との株式保有割合を考慮する(例えば、とりあえずは50:50にしつつ、ある一定時期までに後継者に3分の2を持たせる等)
・信託を用いて議決権を自己信託としつつ後継者への株式譲渡を実行する
・持株会社を設立し事業会社(子会社)は後継者に任せて、ホールディングカンパニー(親会社)は現経営者が支配する
といった工夫が必要となります。

 また、こういったタイプの現経営者は意外と肩書にこだわりますので、「取締役会長」「会長」「相談役」といった会社経営に関与していることを示す肩書を付与することもポイントとなります。さらに、現経営者は、これまでの自分の経営手法を取り入れながら、今後の会社経営を後継者に託したいと考えていることが多いようです。
そこで、例えば1ヶ月に1回といった定期で現経営者より経営を学ぶ勉強会のようなものを開催し、現経営者の意向を十分に満たすといった取り組みも有用ではないかと思います。

現経営者に敬意を示しながら、少しずつ着実に

 いずれにしても、このようなタイプの経営者の場合、一気に事業承継を行うことは困難ですので、後継者が少しずつ経営に関与する形式をとる、そして現経営者に対して相応の敬意を示すことが事業承継をスムーズに進めるためのポイントとなります。

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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