後継者の準備期間を設けることで、適切な経営を実現

円滑な事業承継のためには最低でも5年、できれば10年必要!?

 事業承継の話を現経営者に提案した場合、よくあるパターンとして、「まだまだ自分は元気なので心配ない」「幹部が優秀なので、私がいなくても会社はまわっていく」といった回答が返ってきます。

 ところが、現経営者自身が病気になって入院したり、知り合いの社長が急逝したりすると、不安に駆られるようになります。そして、よくよく考えると何も準備ができていないということに気が付き、慌てて対策を講じようとします。

 もっとも、そもそも事業承継を行うには、①現経営者自身が覚悟を決める、②いつ承継するのか決める、③誰に承継させるのか決める、④後継者のための制度構築を行う、⑤事業承継を実行する、というプロセスを1つずつ踏んでいく必要があります。しかし、何らかのきっかけで現経営者が事業承継を決断しあっとしても、①については現経営者のみで実行できますが、②以降のプロセスは現経営者のみでは実施不可能です。

 すなわち、②と③は表裏一体の話になるところ、まずは後継候補者を決めた上で、その候補者の了解を得るためには、協議や説得などが必要となりますのでそれ相応の時間が必要となります。なお、円滑な事業承継のためには最低でも5年、できれば10年は欲しいと言われていることも考慮すると、②については年単位での見通しが必要となります。

後継者のための制度構築について

そして、④については、例えば、後継候補者が現経営者の子供であるものの、その子供が会社外で勤務している場合は、いったん会社に呼び戻したうえで会社業務全般を経験させる必要があります。また、従業員との人間関係の構築など時間をかけてじっくり築き上げなければならない事項もあります。さらに、現経営者の頭の中に入っている不文律とでもいうべき会社経営にまつわる情報を洗いざらい後継候補者に教え込む必要があります。

また例えば、後継候補者を自社内の従業員とする場合、会社経営に必要な資産を当該従業員が取得するための方策や資金調達といったことも追加で考慮する必要があります。

あるいは例えば、子供を含む親族や自社従業員ではない全くの第三者が後継候補者となる場合、阿吽の呼吸という訳にはいきませんので、純粋なビジネス取引としての側面も追加で考慮しながら制度構築を検討する必要があります。

事業承継の実行について

なお、⑤についても、後継候補者が継いだ後の会社経営はどうしても不安定になりがちです。このため、ある程度は現経営者が関与する必要があるのですが、何をどこまで関与するのかを予め合意しておく必要があります。例えば、あまりに現経営者が口出ししすぎると、後継者の経営意欲を削ぐことにもなりますし、従業員や取引先等の利害関係者がいつまで経っても後継者を受け入れてくれないことになりかねず、非常に悩ましい問題となります。

後継候補者の属性にかかわらず、上記①から⑤までの内容を今日明日ですべて実施することなど不可能です。また、これらの内容を実施せず、あるいは不十分なまま事業承継を行っても、現場に混乱をもたらすだけであり、下手をすれば会社が傾いてしまうことさえ有り得る話です。

 後継候補者の心の準備はもちろんのこと、会社の内部関係者(従業員や親族株主等)の納得や外部関係者(取引先や金融機関など)の理解を得て、スムーズな事業承継を実現するためには、早期の準備が必要です。

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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