承継計画を策定することで承継後の経営安定化に繋がる

事業承継計画を策定するに際して、考慮するべき4点

①資金管理…資金繰り表の作成、短期資金の需要の要否、長短借入のバランスの検証を行う。

②後継者対策…後継者を指名し、内外に公表し育成する。間接業務(人事、経理業務など)等を含めた会社業務全般を経験させる。

③株・財産対策…経営支配権(株式)を承継させる、事業用財産(特に社長個人名義の財産)を移転させる。

④納税資金対策…固定(遊休)資産の現金化、生命保険等の活用を検討する。

 

①資金管理…資金繰り表の作成、短期資金の需要の要否、長短借入のバランスの検証を行う。

 まず①についてですが、後継者に対して会社の現状及び今後の動向を知ってもらい、現経営者と認識を共有するという点が一番の目的となります。当然のことながら、会社の状態を包み隠さず後継者に見てもらう必要がありますので、資金管理業務を行うにあたっては、税金対策を考慮した勘定科目操作は行わないこと、及び将来的な事業計画についてもやや保守的な態度で作成し、後継者に過度な期待を持たせないよう配慮する必要があります。

なお、資金管理業務を行うことで、例えば、改めて無駄な経費負担を行っていたのが見えてきた、投資するべきところに投資できていないことが見えてきた、回収できていない売掛金等が見えてきた、取引額に応じた取引先の優先度が見えてきた、事業承継(相続)対策に回せる現預金が見えてきた等々、今すぐ実行できそうな経営改善策が発見できたりします。頭の中で理解しているつもりであっても、改めて紙(データ)に落とし込むことで、違った角度から会社状態を見ることができるので、現経営者にとっても色々な気付きがあります。資金管理業務は行って損はありませんので、是非とも実践したいところです。

 

②後継者対策…後継者を指名し、内外に公表し育成する。間接業務(人事、経理業務など)等を含めた会社業務全般を経験させる。

 次に②についてですが、現経営者がある日突然後継者指名を行ったところで、周囲の関係者(従業員や株主などの社内関係者、取引先や金融機関などの社外関係者)は受け入れてくれません。周囲の関係者の心の準備や後継者としての適格性の見極め判断等を考慮すると、可能な限り年単位での事前公表が望ましいといえます。数ヶ月前に後継者の発表という形では周囲の関係者の理解は得られないと考えるべきです。一方、後継者指名を受けた者にとっても、周囲の関係者との信頼関係項の構築はもちろん、会社のありとあらゆる業務を知る必要があります。会社のことを知るための教育期間を考慮しても、やはり数ヶ月程度では不足するといわざるを得ません。

 事業承継は今日明日でいきなり完結するわけではありませんし、今日明日で完結させることなどおよそ不可能です。数年単位を見据えた事業承継計画の中で、少しずつ現経営者から後継者へ経営権を譲渡する(現経営者が少しずつ現場実務から離れる)ことを意識したいところです。

 

③株・財産対策…経営支配権(株式)を承継させる、事業用財産(特に社長個人名義の財産)を移転させる。

 ③についてですが、一般的には弁護士等の専門家の知識を借りながら実施することが多い事項となります。この分野は現経営者の思い込みだけで対処すると、あとで重大な問題が生じる(法的には認められないスキームである、過大な税金が発生する等)ことも多々見かけるところです。有利に事を進めるためにも早めに弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。

 

④納税資金対策…固定(遊休)資産の現金化、生命保険等の活用を検討する。

 最後に④についてですが、この点はある程度現経営者も意識していることであり、会社に顧問税理士がいる場合は相談しながら進めているかもしれません。ただ、税理士にもいろいろなタイプの方がいるようで、相続税を含む資産税の処理について苦手意識を持っている税理士も一定数存在するように思います。したがって、やや心苦しいかもしれませんが、納税資金対策については、積極的にセカンドオピニオンを求めたほうが良いのではないかと考えるところです。

事業計画の策定は一朝一夕でできるものではありません。万一、現経営者に何らかの事態が生じ、突然明日から事業承継スタートとならざるを得ない状況になった場合、準備不足により会社経営が混乱することは明らかです。

日ごろから事業承継計画を策定しておけば、万が一の事態が生じても、あとは事業承継改革に沿って実行するのみですので、後継者による経営安定化に資することになります。この点からも、早めの事業承継対策を進めるべきです。

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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