後のことは後の人たちが勝手にやればいい

現経営者にありがちな心理的要因

非常に無責任のような言葉に聞こえますが、本当に「自分がいなくなった後のことなど関心がない!」という現経営者はまずいないように思います。こういった発言が出てくる背景としては、①税理士と相続税を含む税務対策を十分に講じており、後継者を含む相続人が困る状況ではないと思い込んでいる場合、②(自社株や会社財産の処理未了であるにもかかわらず)会社代表者の地位は既に後継者に譲渡済みなので問題はないと思い込んでいる場合、③(事業承継対策を講じなければならないことは分かってはいるものの)事業承継についてあれこれ言われるのが億劫になっている場合、といったものが想定されます。

 

事業承継の提案の方向性

事業承継対策は税務対策だけではない!?

 この点、①の場合であれば、事業承継対策は税務対策だけではないことをまずは理解していただく必要があります。おそらくは税務に関係する自社株の評価対策、自社株の後継者への譲渡、納税資金の確保といったことまではカバーされているかと思います(場合によっては遺言書の準備もされていることもあります)。一方、後継者が気持ちよく経営できる環境といえばよいでしょうか、社内体制(例えば古株の従業員を含めた協力体制の構築など)、後継者の対外的な信用(例えば金融機関や取引先などが新社長として受け入れてくれるのかなど)といったものまでは、税理士のみでは対処することが難しいのが実情です。したがって、例えば「事業承継対策を進めていること素晴らしいですね。一応念のため確認しておきたいのですが、××といった点はもう既に実行済みでしょうか」といった形で、対策を進めていることに敬意を表しつつ、抜け漏れがないかを確認しながら進めていくのがポイントになるように思います。

自己流の事業承継対策は要注意!

 次に、②の場合は、現経営者の自己流で事業承継手続きを進めている可能性が高く、重要な対策が講じられていないことが多く見受けられます。したがって、例えば「すでに社長の地位を譲られて、事業承継対策を進められているのですね。ところで、手続き的なことでありやや専門的な話になってしまいますが××については既に対応されていますか」といった形で、上記①と同様に、敬意を表しつつ、抜け漏れがないかを確認しながら進めていくのがポイントになるように思います。

事業承継に億劫な経営者にはヒストリーブックが効果的!?

 最後に、③の場合ですが、現経営者に嫌気がさしていますので、事業承継対策の必要性をストレートに論じても逆効果です。この場合は、例えば、「社長が事業を起こして、今日までどんな思いでやってきたのか、また困難にどうやって立ち向かっていったのか、社長のヒストリーブックを作りましょう」といった、現経営者の会社に対する想いをくみ取る作業を行うことが重要ではないかと考えています。なお、そのようなことをして何か意味があるのかと思われるかもしれませんが、執筆者は意味があると考えています。もちろん現経営者の機嫌を取るという意味もあることはあるのですが、こういったヒアリングを行っていくと、会社の経営理念というのが見えてきます。そして経営理念の承継こそが事業承継の肝になってきますし、現経営者としても後継者に経営理念を引き継いでほしいと望んでいます。こういったヒアリング作業を後継者が行うことで、自然と現経営者と後継者との間で事業承継に関する話も進んでいくことが多いようです。一見遠回りのようにも思われるかもしれませんが、こういったやり方もあるということも知っていただければと思います。

 なお、上記①~③のいずれにも該当しない場合、すなわち本当に現経営者が今後の事業継続を考えていない場合、廃業するほかありません。もっとも、第三者から見て有望な事業がある場合は、当該第三者が現経営者と交渉して事業を譲ってもらえないか模索することになります。この場合はM&A(事業譲渡や会社分割など)を実行することになります。

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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