事業承継の相談は誰にすべきか?ケース別の相談先&事例を解説!

目次

1.事業承継の現状
2.事業承継の相談先6選
 (1)税理士・公認会計士
 (2)金融機関
 (3)商工会議所
 (4)公的機関(事業引継ぎ支援センターなど)
 (5)M&A仲介会社など民間事業者
 (6)弁護士
3.ケース別の相談先&事例
 (1)親族内承継
 (2)従業員承継
 (3)第三者承継
4.事業承継の相談先を選ぶ上での3つのポイント
 (1)実績数を確認すること
 (2)他の専門家との連携状況を確認すること
 (3)同業者や取引先などの知人(非専門家)の意見を真に受けないこと
5.事業承継の相談は弁護士へ

1.事業承継の現状

事業承継の現状について、端的に言うのであれば「頭では理解していても、実行できていない」社長が大多数であるといえます。
日々の経営だけで精いっぱいである、特に新型コロナによる事業環境変化への早急な対応が必要であり、事業承継どころではないというのが実情だと推測されます。
たしかに、上記のような事業承継検討に充てる時間が不足しているという状況は理解ができますし、やむを得ないところもあります。

ただ一方で、一から十まですべて社長自らが経営問題を対処しようするから時間が足りない…という問題もあるのではないでしょうか。もちろん、事業承継の問題を全面的に第三者に委ねるということはできません。
しかし、第三者に委ねないことには、事業承継の全てを社長1人でやることは不可能と言わざるを得ません。

そこで、今回は誰に事業承継の相談を行うべきかについて解説します。

 

2.事業承継の相談先6選

事業承継の相談先がイメージできない、そこでまずは自分で調べてみようと「事業承継 相談先」でネット検索を行うものの、膨大な検索結果が表示され結局分からない…ということを既に経験されているかもしれません。

事業承継の相談先を調べるためには、まず大前提として押さえておくべき事項があります。
それは、「事業承継に関係する業務が複雑多岐にわたるため、1人にすべてを任せることができない」という点です。
この点をまずはご理解いただきつつ、各相談先の特徴等を解説します。

(1)税理士・公認会計士

会社にとって、真っ先に思い浮かぶ相談先と言えば税理士・公認会計士になるかと思います。
執筆者は弁護士ですが、執筆者の個人的な見解としても、まずもって最初に相談するべき相手として、税理士・公認会計士を選択することは間違っていないと思います。

なぜならば、事業承継とは会社の経営権の移動を発生させるものであるところ、経営権の移動はすなわち株式譲渡に他なりません。そして、株式も資産の1つであるところ、そして資産の移動を行う場合は必ず税金の問題が発生するからです。
また、縁起でもないことかもしれませんが、人は必ず死を迎えます。社長が死んだ後、すなわち相続が発生した場合をシミュレーションしつつ、会社経営に必要な資産を生前または死後どのように移動させるのか検討する必要があるのですが、やはり資産の移動を伴う以上、税金の問題は生じることになるからです。

したがって、適切な税務対策を考慮した事業承継を行う場合、税理士・公認会計士の関与は不可欠となります。
ただ、税理士・公認会計士は税務の面ではプロフェッショナルなのですが、事業承継を実行するための手続き面、特に法律が要求している手続きを実践できているのかと問われると、残念ながら疑義がある事例を執筆者は複数見かけています。

その意味で、全てを税理士・公認会計士にお任せするに訳にはいかないと考えられます。

(2)金融機関

金融機関とお付き合いがある、特に担当者と懇意にしている場合、金融機関に事業承継の相談を行うということがあります(なお、最近では、金融機関が積極的に事業承継を持ち掛ける事例もあるようです)。

たしかに、事業承継を行うに際し、金融機関に対して連帯保証人の変更申請を行う必要がありますし、金融機関と引き続き関係を維持するためには後継者を紹介する必要があること、事業承継を実行する上で別途融資をお願いする可能性があること(後継者の株式買取費用など)を考慮すると、金融機関も事業承継に深い利害関係を有する以上、早めに相談することは適切と言えます。また、金融機関が最近では事業承継支援に積極的になってきていますので、金融機関内部でも相応の人員を配置していることもあるようです。

ただ、執筆者が知る限り、金融機関が前面に立って事業承継手続きを支援するかというと、そこまでの対応はしないというのが実情のようです。ある程度話を整理しつつ、最終的には金融機関より専門家の紹介を受けるというのが通例のように思います。結局のところ、当該専門家に再度相談しなければならないという意味では、二度手間といえるかもしれません。

事業承継に際しては、早かれ遅かれ金融機関に相談しなければならないので、相談先として選択すること自体は間違いありません。ただし、金融機関という性質上、手取り足取り教えてくれるという訳ではありませんので、必ずしも最初の相談先として選択する必然性は乏しいと言えるかもしれません。

(3)商工会議所

商工会議所に加入しているのであれば、商工会議所が月に数回送付してくる資料の中に、必ずと言っていいほど事業承継相談を受け付けている旨の案内が掲載されています(注:執筆者は大阪商工会議所に加入しており、大阪商工会議所の例を念頭に記載しています)。
そして、商工会議所はここ数年、事業承継支援に相当な力を入れており、経営相談員による対応はもちろん、各種専門家同席での相談対応実施などワンストップサービスの提供に力を入れているようです。

したがって、商工会議所に加入しているのであれば、商工会議所に相談することも有力な選択肢になると考えます

ただ、金融機関と同じく、商工会議所それ自体が事業承継手続きを全面支援してくれるわけではありません。
最終的には、商工会議所より紹介を受けた各種専門家に依頼して手続きを進めることになります。
また、商工会議所ごとで対応能力に大きな差異があるという話はよく耳にしますので、大規模な商工会議所のほうが良いかもしれません。

(4)公的機関(事業引継ぎ支援センターなど)

中小企業庁が中心となって全国各地に公的な事業承継相談センターが設置されています。近くに相談センターがあるのであれば、まずは話を聞いてみることも選択肢として考えてよいと思います。

ただ、金融機関や商工会議所と同じく、公的機関が前面に立って事業承継手続きを支援するわけではなく、やはり紹介を受けた各種専門家に依頼する必要があります。また、執筆者は執筆時点(2021年5月)で公的機関に関与していないので、あくまでも伝聞にすぎませんが、公的機関のためか、当たり障りのない話しか聞くことができず、物足りないと感じる相談者も少なからずいるようです。

とはいえ、公的機関という安心感があるのは確かですし、中立公平な観点から事業承継手続きを知る意味でも、最初の相談先として利用する価値はあるのではないでしょうか。

(5)M&A仲介会社など民間事業者

最近、事業承継をビジネスチャンスと捉えた民間事業者が数多く参入してきています。
民間事業者である以上、ピンキリがあると言わざるを得ないのですが、色々と注意するべき事項があります。
ここでは、特に注意したい2点をあげておきます。

・M&Aのみ取扱う事業者ではないか

事業承継の方法として第三者承継、すなわち親族や従業員以外の第三者によるM&Aを通じて事業承継を実施することは徐々に増加しています。そして、多くの民間事業者は、このM&A手続きの仲介を行うことによる仲介料ビジネスを行っています。
もし、事業承継の方法として、第三者承継を念頭に置いていない場合、相談先としてはミスマッチングとなりますので注意が必要です。

・各種専門家(士業)の業法違反

弁護士でない者が紛争案件に関与し、一方の代理人として交渉を行う等して弁護士法違反に問われる…といった事例はどこかで耳にしたことがあるかもしれません。弁護士法人や税理士法人など士業が設立している特殊法人の場合はともかく、一般的にある株式会社の場合、弁護士や税理士資格を保有しているわけではない以上、弁護士業務や税理士業務を扱うことは法律違反です。多くの民間事業者はこの点を意識して業務遂行しているはずですが、中には法律違反を認識しつつ業務遂行するところもあるようです。
事業承継手続きは、なにか1つでも歯車が狂ってしまうと全体に影響を及ぼし、適切な手続きを実践できない(余計な費用負担が生じたり、最悪の場合は事業承継手続き自体が頓挫してしまう)という構造的問題を抱えています。

もちろん、何が業法違反なのか分からない場合もあるかと思いますが、民間事業者による提案内容が直感的に怪しいと感じた場合は、一旦立ち止まってセカンドオピニオンを求めるといった意識が必要となります。

(6)弁護士

事業承継についてトラブルが生じている場合、優先的に弁護士に相談するべきです(弁護士の知り合いがいないのであれば、税理士・公認会計士から紹介を受けるのも一案です)。

例えば、事前の事業承継対策を講じないまま社長が死亡し、遺産分割協議がまとまらない中、経営権争いが勃発したという場合、上記(1)から(5)に記載した相談先では如何ともしがたいからです。
また、社長生前中に事業承継を検討するに際し、例えば、社長個人には株式以外に目立った資産がなく、その株式を特定の相続人(=後継者)のみに割り当てようとする場合といった、相続人間の公平性が保てないようなケースでは、必ず法律問題(遺留分侵害など)が発生しますので弁護士に事前に相談するべきです。

なお、弁護士である執筆者が言うのもおかしな話ですが、一般的な事業承継における最初の相談先として弁護士をイメージする方は少数だと思われます。
たしかに、目立ったトラブルがない状況下で、いきなり弁護士に相談するというのも違和感があるかもしれません。
しかし、例えば税理士等に事業承継手続きをお任せした場合、税理士等は法律の専門家ではありませんので、どうしても誤って手続きを進めてしまう場合があります。
税理士等に依頼する場合であっても、弁護士がバックアップしてくれるのかは確認したほうが良いかと思われます。

 

3.ケース別の相談先&事例

事業承継については、親族内承継、従業員承継、第三者承継(M&A)の3パターンに分類できますので、以下ではこの3パターンに分けて、誰に相談するべきか解説を行います。

(1)親族内承継

後継者も決まっており、後継者以外の親族や利害関係者からも特段反対がないというのであれば、まずは税理士・公認会計士への相談からスタートして問題ないと考えられます。
そして、セカンドオピニオン的な位置づけとして、適宜公的機関や商工会議所の相談を利用するという方法で進めることが可能ではないかと思われます。

もし、確実を期したいというのであれば、さらに次のようなことも検討するべきです。

まず、親族内承継において主に検討するべき事項は、社長及び後継者以外に株式が分散している場合は株式を買戻すこと、そして社長を含めた会社の全株式を後継者に譲渡することとなります。
株式という財産の移転が伴う以上、税金対策は必須となりますので、税理士への相談は必須です。
また、社長及び後継者以外に株式が分散している場合において、買戻し交渉が難航しそうであれば弁護士に相談するべきです。
社長が保有する株式を譲渡するに当たり、社長が株式以外に目立った資産を保有していない場合も、遺留分侵害に備えて弁護士に相談したほうが無難です。

株式以外の財産、例えば不動産の譲渡を行う場合、登記手続きが関係してきますので、司法書士にも相談を行ったほうが良いと考えられます。

一方、社長が事業のために負担している債務(連帯保証を含む)の引継ぎについては、基本的には社長と後継者自らが金融機関等と相談しながら進めることが多いと思われます。
しかし、例えば、経営者保証ガイドランを活用した保証契約の解除等を目指すのであれば、過去の決算内容及び事業計画の策定といった観点から税理士・公認会計士、金融機関との交渉のやり方について弁護士と緊密に連携を取りながら、場合によっては弁護士を代理人にして進めていったほうが無難かもしれません。

最後に、株式等を含む財産の譲渡につき、社長の生前ではなく、社長の死後に実行することを想定して、遺言書の作成や民事信託を利用する場合、きわめて高度な法律知識を必要とすることから弁護士に相談したほうが無難と考えられます。

(2)従業員承継

従業員承継においても、まずは税理士・公認会計士に相談することからスタートでたいていの場合は対応可能です。
また、状況に応じた相談先については、原則上記(1)に記載したことが当てはまります。

ただ、従業員が社長等より株式を譲受ける場合、当然税金対策が必要になるのですが、そもそも論として株式を買い取るための資金が必要となります。
株価にもよりますが、従業員が株式を買取るだけの資金がない場合、資金捻出のために金融機関に支援してもらわなければならない場面が出てきます。
したがって、従業員承継の場合は、早めに金融機関にも相談を行ったほうが良いと考えられます。

(3)第三者承継

第三者承継を選択する場面は、親族内承継や従業員承継が適わず仕方なく…という事例が多いようです。
この場合、事業承継したくても後継ぎがない状態からスタートしますので、後継ぎ候補を発見することがまず何より必要です。
したがって、後継ぎ探しを専門とするM&A仲介会社など民間事業者がまずもっての相談先となります。
なお、金融機関、商工会議所、公的機関も後継ぎ探しを行ってくれることも有ります。
ただ、商工会議所や公的機関は積極的に動いて後継ぎ候補先を探してくれるわけではないようです。
また、金融機関は、自らの取引先(貸出先)とマッチングできそうな場合は積極的に動いてくれることもありますが、何が何でも後継ぎ候補先を探そうというスタンスでは動いてくれません。
熱心さという観点では、やはり民間事業者の動きが圧倒的と言わざるを得ないところがあります。

ところで、民間事業者に事業承継(M&A)を行う場合、可能な限り弁護士にも相談したほうが良いと執筆者個人は考えます。
というのも、民間事業者が提示する契約内容が、往々にして一方的過ぎる(相談する側にとって非常に不利な内容になっている)ことが多いからです。
トラブルになってから弁護士に相談を持ち掛ける方もいますが、多くの場合、契約書が存在する以上、如何ともしがたいというのが実情です。

また、M&Aの場合、タイミングの問題がありますが、金融機関に相談することは必須です。
但し、ここでの相談は事業承継を実行するに際し、金融機関に引き続き取引を継続してもらえるのかという確認・了承のための相談となります。
この場面では、事業承継手続きを進めるに際し、金融機関の存在がかえって障害になりうることに注意が必要です(事業承継に反対された場合、これまでの貸付金につき一括返済を迫られる場合があったりします)。

 

4.事業承継の相談先を選ぶ上での3つのポイント

(1)実績数を確認すること

事業承継に限りませんが、やはり実際の経験事例数が多ければ多いほどノウハウがたまってきますので、より適切なアドバイス等ができるようになります。
例えば、最も一般的な相談先は税理士・公認会計士と考えられますが、税理士・公認会計士の中には、記帳代行を含む申告業務は取扱っているものの、相続税等の資産税業務は取扱っていないというところもあります。
もし、顧問税理士が資産税業務を取扱っていない場合、無理にお願いするよりも資産税業務に明るい税理士を紹介してもらった方が、双方にとってメリットが大きいと考えられます。

なお、弁護士に関して言えば、個人の問題を取り扱う弁護士よりは企業の問題を取り扱う弁護士のほうが無難と考えます。
ただし、いわゆる企業法務専門の弁護士が適任かというと、必ずしもそうとも言い切れません。
なぜならば、事業承継の問題は、必然的に相続・遺産分割の問題が絡んでくるところ、企業法務専門の弁護士は、相続・遺産分割問題を一切取扱ったことがないということもあるからです。
端的に「事業承継問題を取扱ったことがあるか」と問い質し、回答を得たうえで判断したほうが良いのではないかと考えられます。

(2)他の専門家との連携状況を確認すること

事業承継と一言でいっても、資産や債務の承継問題、親族間の調整問題、利害関係人(従業員、取引先、金融機関等)への対応問題など様々な事項を考慮しつつ、税務対策を考慮しながら、なおかつ適法な手続きを実践するという、きわめて高度かつ複雑な問題対応となります。

したがって、1人の専門家がすべての事項を考慮しつつ、1人ですべての事項に対処することはおよそ不可能です。
餅は餅屋ではありませんが、各種専門分野ごとで専門家を配置し依頼をしないことには、うまく事業承継を進めることができません。
事業承継問題を取扱っている者であれば、この点を理解しているため、必ず他の専門家と連携を図っており、いざという場合はプロジェクトチームを組んで対処しようとするはずです。

したがって、各種専門家との連携状況を確認したほうがよいと考えられます。

(3)同業者や取引先などの知人(非専門家)の意見を真に受けないこと

実は東京商工会議所等がアンケート調査したところ、事業承継の相談先として、同業者や取引先が高い割合となっている事実が明らかとなっています。

もちろん、同業者や取引先も良かれと思って相談に乗ってくれているなどと思いますが、残念ながら間違った知識(この間違いの原因も複雑で、同業者等が経験した当時は合法であっても、相談時には法改正により違法となっていたという場合もあったりします)に基づくものもあり、専門家から見れば「なぜこんな間違いを…」と思うこともあったりします。
致命的な間違いも散見しますので、知人からの回答内容はあくまでも参考程度に留め、必ず専門家による裏付けをとるようにするべきです。

 

5.事業承継の相談は弁護士へ

事業承継に関して真っ先に思い浮かぶ相談先は弁護士である…と世間では現状認識されていません。
もちろん、既にトラブルが勃発している場合であれば、まずは弁護士に相談となりやすいのですが、事業承継を進めるうえで最初から紛争が生じているという事例は少ないと思われます。

たしかに、紛争となっていない場合、表立って弁護士が動くことは少ないかもしれません。

しかし、財産が移動する場合は必ず税務が関係するのと同じで、財産移動の場合はもちろん、社長の地位を含む現状の変更を行う場合、その変更に関連して法律問題は付きまとってきます。
法律問題を回避するためには、弁護士と随時相談しながら進めるのがベストです。
また、事業承継は複数の専門家と協同しながら進める必要がありますが、社長が各専門家と個別に協議しながら進めることは、時間も労力もかかります。
そこで、社長との交渉窓口を弁護士に一本化し、弁護士が各専門家と連携を取りながら情報集約を行うといった利用するのはいかがでしょうか。
弁護士はもともと紛争解決のための利害調整を日常的に行っていますので、このようなコーディネイト役を得意としています。

スムーズな事業承継を進めるに際しては、是非弁護士にもお声掛けください。

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弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。