労務問題や法務課題など必要な課題の洗い出しが可能

事業承継を行うための4つの対策

事業承継対策は、一般的には相続税対策と同視されています。たしかに、相続税対策が重要であることは疑いようがありません。しかし、相続税対策だけ行えば事業承継がうまくいくかというと、それはあり得ません。なぜなら、事業承継を行うためには、次に記載する4つの対策を講じる必要があり、これを行わないと様々な弊害が生じるからです。

①資金管理…キャッシュフローを把握し、経営収支のバランスを把握することが目的。また、無計画な仕入れや在庫の排除を行うことが目的。なお、対策を講じない場合、突然の資金ショートや借入困難といった弊害をもたらす。

②後継者対策…後継者が重要な意思決定ができるようになり、名実ともに社長として実権を握ることが目的。なお、対策を講じない場合、社内分裂や組織の決断力低下を招くといった弊害をもたらす。

③株・財産対策…計画的な株式移転や合法的な利益圧縮を可能にすることが目的。なお、対策を講じない場合、想定外の相続税が生じたり、遺留分侵害といった弊害をもたらす。

④納税資金対策…納税資金を確保すると共に、相続人等に対して円滑に財産を分散させることが目的。なお、対策を講じない場合、株式や事業用財産の分散といった弊害をもたらす。

後継者対策における労務問題に要注意!

 上記の中でも、意外と現経営者において気が付きにくいのが、②に関連する労務問題についてです。現経営者の下で業務従事している従業員は、現経営者に対しては敬意を持っています。しかし、後継者に対しても敬意を持つかは全く分かりません。ちょっとした例え話になりますが、豊臣秀吉が豊臣秀頼を後継者指名しても、重役であった徳川家康をはじめ豊臣秀吉に仕えていた者達が反旗を翻した史実を見ても、現在業務従事している従業員がそのまま後継者に従うとは限らないということはお分かりいただけるかと思います。

 もちろん最終的には人と人との信頼関係の問題に帰着しますので、後継者と従業員との関係をすべて法律で解決することは不可能です。しかし、後継者と従業員との間で法的紛争が生じた場合、その悪影響は計り知れない以上、現経営者としては可能な限りの法的紛争の芽を摘むことが望まれます。実際に起こったトラブルとして、後継者を単なる飾り物にし、会社経営の実権を握ることを目的とした労働組合の結成や残業代請求といった、法的権利行使にかこつけた事業承継妨害というべき事例も存在するのです。そして、人事労務に関する法的紛争は一度発生してしまうと数珠つなぎで紛争が拡大しがちであり、しかも法律上は会社にとって厳しい結果になり得るものが多いというのが正直なところです。

したがって、現経営者がまだ力を持っている段階から人事労務にまつわる法律上の課題を1つずつ解決すること、これも非常に重要な後継者対策となることをご理解いただければと思います。

株・財産対策について

 その他法務課題として典型的なものは、上記③に関連する株式を後継者に集中させることについてです。例えば、平成2年より以前に設立された会社の場合、会社設立時に発起人が7人以上必要とされていたことから、本当は出資していないにもかかわらず名義だけ株主になっているという人物が存在するパターンが非常に多いという問題があります。このため、株式を集中させたくても、現在では連絡も取りあっていない名義株主とどうやってコンタクトを図り株式の処理を行うのか悩ましい問題が発生したりします。

 また、現経営者の資産の大部分が株式という場合、後継者のみに株式を集中させると、あとで遺留分侵害の問題が生じたりします。また、株式について生前対策を行わないまま相続が発生した場合、後継者以外の相続人から相続財産の公平分配を害するとして、後継者への株式譲渡を拒否されるということも有ります。

 上記で記載したことは本当に一例にすぎません。税務面のみならず、労務を含む法務視点での課題を洗い出すことができれば、事が起こる前に対策を講じることが可能です。この点からも、早めの事業承継対策を進めるべきです。

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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