会社の問題点を先に解消したい

現経営者にありがちな心理的要因

 会社の将来のことを真剣に考えているため、事業承継の必要性自体は理解してくれるものの、なかなか一歩を踏み出してくれないタイプの現経営者となります。このタイプの現経営者は「借入を減らしてから」、「業績を改善させてから」、「後継者育成を済ませてから」などといった反応が返ってきます。

 このようなタイプの現経営者はある意味で優秀であり、次々と経営上の課題を発見してしまい、自分で何とかしなければ(後継者に迷惑をかけたくない)と考えてしまうため、いつまでも経っても事業承継が進まない状態に陥りがちです。

 

事業承継の提案の方向性

経営課題の見える化を図る

こういったタイプの現経営者の場合、問題点を解決できる見込みはいつなのか、という事業計画を一緒に考えることで解決できることがあります。例えば、事業計画を策定しようとしても、現経営者が認識している経営課題について、いつの時点で解決可能なのか明確な時期を示すことができない場合があります。あるいは解決可能な時期が10年以上先ということもあります。このような解決までの“見える化”を図ることで、現経営者が現役で稼働している期間中に解決することが困難であることに気が付いてもらえると、どこかで踏ん切りをつけないという気持ちになってもらえます。

そして、例えば、
「経営上の課題解決について、後継者が関与しないまま社長に万一のことがあった場合、後継者は経営上の課題を解決する術は持たないし、下手をすれば経営上の課題に気が付かないまま、会社存亡の危機を迎えてしまうのではないでしょうか。これでは本末転倒です。」
といった言い回しで提案を行うのが1つの方法です。現経営者一人ではすべてを解決できないということに気が付いてもらえると、事業承継を行う決心につながるように思います。

ポイントは周囲を巻き込みながら対処すること

 ところで、このようなタイプの現経営者の場合、経営上の課題が解決するまで見届けたいと考えていることが多いように思います。したがって、事業承継に際し、いきなり会社経営に関与させないという方法はとるべきではありません。例えば、日常的な経営は後継者に徐々に任せつつ、経営上の課題(難題)についてはプロジェクトマネージャーのような役割で現経営者に専任してもらう、といった業務分担を図るというのが有効な対策となる場合があります。もちろん、現経営者が経営上の課題(難題)と考えていることなので、現経営者のみで解決できる保証はどこにもありません。
そのため、現経営者に専任させるといっても、後継者を含めた周囲のアドバイザーが、経営上の課題(難題)解決に向けて適宜関与することが必要です。例えば、1ヶ月に1回といった定期で協議会を開催し、経営上の課題(難題)の進捗具合を確認し情報共有を行うといったことがポイントになると考えられます。

 ちなみに、やや荒療治となりますが、執筆者が経験した事例として、現経営者が経営上の課題と認識していた問題について、銀行の融資担当者が「後継者を選んで任せない限り解決不可能」と突き放したことで、一気に事業承継が進んでいったというものがありました。身内からとやかく言われるより、その筋の信頼のおける専門家がズバッと指摘したほうが、こういったタイプの現経営者は決断をしてくれるのもかもしれません。
その意味では、周囲を巻き込みながら対処するという方法も検討に値します(もちろん周囲の方々が協力してくれることが大前提となりますが)。

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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