後継者指名に遠慮がある

現経営者にありがちな心理的要因

 現経営者としては自分の子供に後を継がせることは心の中では決めていても、本当に子供が継いでくれるのか不安があり、なかなか言い出せない…と悩む現経営者もいらっしゃいます。特に後継者指名を行いたい子供が自社ではなく、他社で勤務している場合は「子供の人生もあるし…」となおさら思い悩んでしまうようです。

 このような悩みを持っている現経営者の多くは、「後継者として考えている子供が引継ぎを断ってくることが怖い」という不安を口にします。たしかに、子供が引継ぎを断ってくる可能性はありうる話ですし、子供に対して強制的に事業承継を行わせるような法律も存在しません。ただ、残念ながらあれこれ考えても仕方がない(事態は改善しない)というのが歴然とした事実です。

 

事業承継の提案の方向性

まずは一歩を踏み出すための声かけを

 こういったタイプの現経営者に対しては、まずは後継候補者の意向を聞かないことには話が始まらないこと、万一後継候補者が引継ぎ拒否の意向を示したとしても、他の事業承継の方法があることを説明し、少しでも不安を取り除くことが重要ではないかと思います。例えば、

「まずはご子息に社長の思いを伝えましょう。ご子息も真剣に検討してくれるはずです。」

「万一思いが届かなかったとしても、最近では親族外の承継や、第三者の承継ということも積極的に行われています。仲介業者も存在するくらいです。他の方法を使って会社を守っていきましょう。」

といった言い方で、まずは一歩を踏み出すよう背中を押してあげるのが、上手な進め方になるのではと思います。

後継候補者の後継者宣言には注意!

 ところで、後継候補者と目される現経営者の子供自らが「後継者になる」ことを宣言するように仕向けることで、このようなタイプの現経営者の悩みを吹き飛ばし、一気に事業承継に進んでいくという方法もあります。ただ、非常に厄介なのが現経営者の考えを読み違えた場合、すなわち、現経営者が後継者指名をまだ考えていない段階であった場合、ケースによって「会社を乗っ取られる」という悪感情を抱くこともあるようです(結果的に事業承継をさせないと意固地になり、事業承継が一切できなくなる事態に陥ることもあります)。したがって、後継候補者としては、現経営者を差し置いて、いきなり対外的に後継者宣言を行うことは絶対に避けるべきです。まずはトップ会談と言えばよいでしょうか、現経営者と事業承継を考えている者(現経営者の長男など)とが二人っきりで腹を割って話をすることをお勧めします。

周囲と相談して早めの対策を!

 なお、執筆者個人の経験上、このようなタイプの現経営者は最近増加傾向にあると感じています。特に、会社内に現経営者の子供を含めた親族が入り込んでいない場合、全く事業承継手続きが進んでいないこともありますし、事業承継を行うこと自体、現経営者が考えていないということもあるようです(つまり自分の代で廃業するということです)。もちろん事業承継を行うか否かは現経営者の判断ですので、その判断を尊重するほかないのですが、親族や従業員が事業承継についてどう考えているのかを事前に聞き取らない限り、廃業さえも簡単にできない場合もあります。また、廃業後の現経営者自らの生活のことも検討しなければなりません。執筆者としては、周囲の意見を聞いてから事業承継の可能性を現経営者に判断してほしいと考えるところです。

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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