事業承継の流れと進め方

1 はじめに

 中小企業庁が公表している「事業承継ガイドライン」では、事業承継の進め方として5つのステップを記載しています。すなわち、①事業承継に向けた準備の必要性の認識、②経営状況・経営課題等の把握(見える化)、③事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)、④事業承継計画の策定orマッチング実施(M&A実施の場合)、⑤事業承継の実行orM&Aの実行、というものです。
 ステップの具体的内容は、法務、税務、労務といった業務縦割りではなく、事実上の現場対応を包含する総合的なものとなります。したがって、非常に広範な内容となりますので、ここでは触れず、事業承継ガイドラインをご参照いただければと思います。以下では、執筆者のこれまでの対応経験事例を踏まえて、相続・事業承継対策を考える上での弁護士視点でのポイント解説となります。大まかには次の3点となります。
(1)後継者をどうするのか
(2)資産の承継をどうするのか
(3)相続対策をどうするのか

2 “事業承継”を検討したいが、何を意識すればよいのか…

上記1で記載した3つのポイントについて、具体的に何を意識すればよいかについて箇条書きにしたものが以下のものとなります。

(1)後継者をどうするのか

まず、後継者を決定できているかが最重要課題となります。
 a)後継者を決めている場合
  ・親族であれば、その正当性・権威を示すことができるのか。
  ・親族以外のうち役員・従業員であればMBO・EBO手続きを、第三者であれば自社株譲渡の手続きを適切に実行できるのか。
 b)後継者を決めていない・後継者が見つからない場合
  ・M&Aを検討しているのであれば、適切なアドバイザーを選任できるのか、M&A形態(株式譲渡、事業譲渡、合併等)をどうするのか、売りやすい会社になるためにはどうすればよいのか。
  ・将来的に廃業を検討しているのであれば、ステークフォルダーにできる限り影響を与えない方法で進めることができるか。

次に、後継者の育成についても気配りする必要があります。
 a)社外での経験
  ・社外での経験が事業承継に悪影響を与えないか(後継者が書いた入社時誓約書に競業禁止があり問題となった事例など)。
 b)社内での経験
  ・社内での信頼醸成や地位・役職の配置を適切に行えているか。
 c)環境の整理
  ・先代経営陣の引退(株式譲受、退職慰労金の支払い等)はどのように進めるのか。
  ・次世代経営陣の育成を誰が担当するのか。
  ・経営者自身が覚悟できているか。

(2)資産の承継をどうするのか

まず、自社株の現状把握ができているかが重要です。
 a)現時点での株価の把握
  ・評価下げ対策は実行可能か(資産計上されているものへの法的整理など)。
 b)誰が株主か、持株数の把握
  ・株主名簿の整理は実行可能か(名義株の解消、少数株主権への対応)。

次に、後継者への自社株集中=経営権の承継を目指すことになります。
  ・直接承継を行う場合の問題点を解消できるか(後継者への自社株贈与に伴う暦年贈与、相続時精算課税制度の適用と遺留分侵害への対応、遺言の活用の可否、納税猶予制度の活用の可否、後継者による直接買取りと資金創出など)。
・間接承継を行う場合の問題点を解消できるか(金庫株の買取の可否、従業員持株会や投資育成会社の活用、名義株の解消など)。
  ・その他(種類株式への対応など)

(3)相続対策をどうするのか

まず、代表的な2つの方法について理解しておく必要があります。
 a)相続による承継
  ・納税問題
  ・遺産分割問題(遺言書がない場合、非後継者が自社株を相続するリスク、遺言書がある場合、遺留分侵害への対応など)
 b)贈与による承継
  ・暦年贈与、相続時精算課税制度、納税猶予制度の活用など

次に、具体的な経営者個人の事業用資産の承継について意識する必要があります。
  ・事業用不動産、会社への貸付金、連帯保証債務、会社からの借入金の承継など

3 “事業承継”を本気で取り組みたいのであれば…

上記までで色々と書きましたが、まずは、経営者・社長が「事業承継を実行する」という覚悟がないことには話がスタートしません。
 この覚悟を決めていただいてから、
①いつまでに承継するのか期日を決めること
②誰を後継者にするのか決めること
この2点=ゴールの設定を決めることがポイントです。その上で、次の世代のためのフレームづくり(後継者教育、資産承継、相続対策など)を着実に構築・実行していくことになります。

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

関連記事はこちら